昨年12月、ある法案が参議院本会議で、全会一致で可決、成立しました。持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的に、労働者や市民が主体者となる「労働者協同組合法」です。
「協同労働」という働き方は、働く人や市民が出資し、民主的に事業を運営し、人と地域に役立つ仕事を創っていくことで、40年にわたり全国で活動を行っています。
今回、東海事業本部にお話を伺い、この地域における取り組みや今後への期待などについて取材を行いました。
※2021年1月19日、特措法に基づく緊急事態宣言の発出に伴い、オンラインでのリモート取材を実施しました。
取材先:日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団・東海事業本部 <岡田本部長、鈴木事務局長>
〇この法律によって何が変わる?
-はじめに、本法案が成立した今のお気持ちをお聞かせください。そして、法律の施行に向けてどのようなことが、今後変わっていきそうですか。
岡田 自分たちでお金を出し合って仕事をつくっていく協同労働の考え、40年取り組んできたことをみなさんに知ってもらえることが一番大きいです。厳しい雇用情勢にある昨今、働き方の選択肢が新しく増えたのです。東海事業本部は15年と歴史が浅いため、この地域に根づき貢献できる事業を広めていく後押しにもなると考えています。
鈴木 これまで適した法人格がありませんでした。例えば、新しく働く人を募集する際、出資の話をすると怪しい団体と思われてしまうことが多々あり、説明するのにとても苦労しました。法律で定義されることで根拠が明確になり、信用も変わってくると思います。
〇海外で協同労働はあたりまえの働き方のひとつ
-イギリスでは150年以上も前に法制化(株式会社よりも4年早く実施)されたように、海外ではあたりまえの働き方のひとつという印象があります。
岡田 はい、先進国で法制化されていないのは日本ぐらいです。ほとんどの国で労働者協同組合に関する法律が存在しています。韓国では日本を手本に進め、日本よりも早く法制化されました。今では協同労働による働き方が続々と生まれているそうです。イタリアやスペインでは製造業や金融業など幅広く取り組んでおり、国や地域に合ったやり方を目指せたらと考えています。
-全国的な歴史から、建物管理や清掃、物流。近年では介護・福祉ということを聞きました。労働者協同組合法によって取り組みことができる事業はかなり幅広いんですね。
岡田 市民の自発的な仕事を大事にしているため、そこで制限をつけてしまうのはどうか?ということがありました。一方、労働者派遣事業は主体的な働き方とは趣旨が異なるため、今回の法律からは除外されました。
〇日本でもっと根づいていくために
-新しく立ち上げたい。協働労働について知りたいなどの相談はありますか。
岡田 地元でこういう活動をしたいから労働者協同組合法を活かせないか?あるいは出資して働くにはどうしたらいいか?などという相談は来ます。この法律で見誤ってはいけないことは、「自分たちがやってきたこと(だけ)が労働者協同組合ではない」。いろいろな形の労働者協同組合が今後出てきていいと考えています。
-新規立ち上げにあたりネックになることはありますか。
岡田 一番は立ち上げ資金です。最近相談した金融機関では地域活動に力を入れていますが、立ち上げ資金についてはなかなか難しいという話でした。そのための基金創設や地域の参考事例を今後学んでいく必要があります。
-どのような人が協同労働という働き方に合っていると思いますか。今後の期待と課題と合わせてお教えください。
岡田 協同労働においてという、特別な答えはありません。しかしみんなで協力して働き、実感を積み重ねていくうちに、効率だけではなく、現場で考え話し合う。全員から意見を引き出すことが求められているなと感じます。
鈴木 目指しているビジョンや想いがあるかどうかが、その人の働きやすさにつながっている気がします。かと言って、なくてもその人を排除することはありません。うちには7つの原則があり、話し合いをとても大事にする組織です。時に考えや意見が異なってもそれを受け入れ、尊重し合う。基本的にはこれが一番大事だと思います。
岡田 今後に向けて課題は山積みです(笑)。労働者協同組合としての事業の意義を、どうやって深めていくか。主体的になれるかどうかの葛藤や、職員同士が共感し合えないことが時には起きます。この法律に見合う組織か、いま改めて問い直されています。また職員の待遇を改善したいです。若い人が夢を持ち、生き生きと働き続けることができるようにしたいです。